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幸せを祈れる場所をつくる

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幸せを祈れる場所をつくる

近畿大学3年生

石黒日向歌

株式会社保志

保志 康徳

interview

学生と経営者がお互いに意見交換しながら、相互理解を深めるHR sessionの対談コンテンツ。

今回は、株式会社保志代表取締役社長 保志 康徳様に、お話を伺いました。

近畿大学3年生
石黒日向歌

近畿大学経営学部。2025年卒業見込み。大学ではフットサルサークルに所属。社会人になる前に実践的な業務を経験できることに魅力を感じHR sessionに参加。趣味はおいしいものを食べること。人間観察。

株式会社保志
保志 康徳

大学卒業後、大手音響機器メーカに入社し約7年間勤めた後、株式会社保志に入社。 10年間営業で活躍後、株式会社保志 代表取締役社長に就任。 趣味は、スキューバダイビング。座右の銘 「念ずれば花開く」。

目次

「こんなに尊い仕事はない」

石黒
本日はよろしくお願いいたします。まず保志様のご経歴についてお伺いしてもよろしいでしょうか。


保志
弊社に入社したのは42年前で、私が28歳の時になります。中学時代に同級生から「人が亡くなって儲かる商売」と言われて非常に傷ついて、初めは継ぎたくないと思っていました。それで当時の社長である祖父のところへ、学生服を着て決別宣言をしに行ったんですね。


石黒
そのとき、おじいさまは何とおっしゃったんですか。


保志
私が継ぎたくないと言ったら、祖父はにこにこ笑って「こんなに尊い商売はない」と言いました。「大切な方を亡くされて、お仏壇に向かって手を合わせる人たちの気持ちを考えたことがあるかい。」と。人生のうちで一番悲しい心の状態にある人が、自分たちが作ったお仏壇やお位牌に手を合わせることでふっと悲しさが和らぐ。確かにこんな尊い仕事はないと考えさせられました。


石黒
おじいさまの言葉で保志様の考え方が変わっていかれたのですね。


保志
まさにその通りです。関西圏の仏具店や石材店が直接のお客様になるんですが、実際に入社してみると非常に良いお客様ばっかりでした。人を温かく迎えてくれて、こんなに素敵な業界があるんだと思いました。



社員の夢を叶えるのが企業の役割

石黒
入社した際、問題意識を持たれた部分はありましたか?


保志
工場が疲弊しているなと思いました。社是にある「豊かな心」を社員に持ってもらうためにどうしたらいいかを考えましたね。


石黒
何を一番意識されましたか?


保志
給料の面はもちろん、どうしたら社員がやりがいを持てるかを考えました。要は、仕事の概念を変えようと。ここで働く社員一人一人が、仕事の対価として給料をもらうのではなく、自分が好きなことをする中でお客様に喜ばれて、社会貢献ができて、お金までもらえるなんてこんな楽しいことないよねと思ってもらえるような取り組みから始めました。


石黒
事業に対しての不安もあったかと思うんですが、その点はどうでしたか。


保志
全く不安はありませんでした。それよりも楽しかったです。決して自分に能力があったわけではないですけど、考え方とアイディアを膨らませて、その結果付加価値が生まれるって楽しみしかないじゃないですか。苦労の先にある楽しみが見えてたので、不安はなかったですね。


石黒
企業のトップとして引っ張るのは大きなプレッシャーがあって、不安や責任に押しつぶされるのではないかというイメージがあったので、今のお言葉が素敵だなと思いました。


保志
経営者は社員がイキイキ働ける環境を作ることが大切です。社員一人一人のやりがいは違いますから、そことどうつなげるかも考えます。社員の夢を叶えるのが企業の役割だと思います。自分には夢があるけど、お金もない人脈もない、でもここなら夢が叶うかも、と思ってもらえる企業にしたいです。


石黒
保志様は社員一人一人の方を大切にされているなと感じました。



「伝統工芸」に夢を持たせること

石黒
御社は厨子や仏壇などの伝統工芸品を取り扱っていらっしゃいますが、私たち大学生とは馴染みが少ないと感じています。保志様はその点をどのようにお考えでしょうか。


保志
「伝統工芸品」というカテゴリは法律にのっとって認定されたものですが、私たちはあまりそこにこだわっていません。枠にはめられて、「伝統工芸品」が形だけ昔のままでは、今の人に役に立たないんじゃないかと思うんです。


石黒
伝統というと、昔のままの形を継承していくという固定観念がありました。


保志
現代の生活に役立つようアップデートしていくこと。それが本来の伝統工芸の役割だと思うんです。形だけ残すのは夢がない。だから後継者もいない。未来を作っていけるように、結果がどうであれ、楽しみながら進むことが大事です。うちの会社は仏壇仏具だけでなく、技術を活かして有名自動車メーカーの内装を手掛けたり、いつかは宇宙ステーションの内装にも携わろうと思っています。夢がありますよね。



モノを通してコトをアップデートする

石黒
現代に合った伝統工芸を生み出すという発想がなかったので面白いです。先祖供養という認識が薄れるにつれて仏壇や位牌がいつか無くなる未来が来るかもしれません。保志様はこの点についてどうお考えでしょうか。


保志
それはとても深いお話だと思います。弊社は仏壇仏具を単なる商売道具だとは思ってないですよね。お仏壇に手を合わせるときって、亡くなられた方を思い出して手を合わせていますよね。仏壇がたまたまインターフェースの役割になってるんです。これなら手を合わせたくなる」「こういうものが欲しかった」というモノを、昔の形にとらわれずに作り出すことが大事だと思います。


石黒
なるほど。仏壇や位牌が今の形ではなくなるとしても、故人を想うための手段として新しい形を生み出していくということですね。


保志
そうですね。不安なことをのぞいて希望ある未来にするには、「祈り」が大事だと思います。身近な人から職場、遠くの国にいる人も幸せになってほしい。そういう気持ちをつくる装置を弊社は作っていきたいと思っています。モノを通してコトをアップデートするということですね。



十人十色の「祈りのかたち」

石黒
「祈り」と出てきましたが、実際に言葉で表すのは難しそうです。保志様はどのようにお考えですか?


保志
そうですよね。石黒さんはどう思いますか?


石黒
「祈り」は目に見えないですが、例えば初詣行ったときに、「1年間頑張るので見守っていてください。」みたいな、守ってもらうという考えです。


保志
いいですね、美しいです。考え方はいろいろありますが、弊社では「幸せを願うこと」を祈りとしています。他者の幸せを祈ること、他を利する心を持てること。そういう装置を弊社の事業である「コト」で作っていきたいと思っています。


石黒
時代は変わるとしても、人の幸せを願うことはずっと変わらないのかなと思いました。


保志
そうですね。誰かのために役立つ自分だということが自覚できたり、可能性があるなと思ったらそれは宝だと思うんです。自分にしかできない何かがある。誰かの笑顔のために、ちょっと頑張ってみよう、とかね。そういうのも祈りだと思います。


祈りの環境=自分の居場所をつくる

石黒
そのような「祈りのかたち」を、現代に合わせてどのようにコトで表現されているのでしょうか。


保志
弊社は、家族一人一人が「持っておきたい」と思えることを目指しています。家に置いておくのではなく、持ち運びできたり、旅行に持って行けたり、あるいは自分にしか分からない形。それが、自分自身を見つめたり心を落ち着かせる場所になったらいいですよね。


石黒
なぜそのような場所が必要になるのでしょうか


保志
今って情報がありすぎて何を信じていいか分からないときがありますよね。自分を見つめるよりも周りを気にしてしまったり。自分にしかない個性を磨いて輝かせるために、自分自身を見つめる場所が必要で、それがお厨子であってもいいと思うんです。



100点がない世界でどう向き合うか

石黒
現代に合った新しいデザインを考案される上で大切にされていることはありますか?


保志
先ほどともつながるお話ですが、どうやったら社員やお客様、社会が楽しくなるかを考えることです。やるなら、誰もやったことがない、前人未踏なところに挑戦したほうが楽しいですよね。


石黒
前人未踏、ですか。


保志
「祈り」は、どうなったら100点という領域じゃないと思うんです。時代を超えて、変わっていくものです。未来に向けてより多くの人を幸せにするために、目標達成のために嫌々働くのではなく、みんなで知恵を合わせて謎解きしていくように。そういうプロセスを楽しむことが大事だなと思いますよね。


石黒
私は仏壇仏具に対して、自分とは壁があって遠いものというイメージがありました。どうすれば若者が少しでも伝統工芸品や仏壇仏具を身近に感じれるのでしょうか。


保志
ありがとうございます。必要になったときに「これがあって良かった」と思ってもらえればいいと思っています。必要な人にとっては心が慰められたり希望を持てるものです。なくてもいいかもしれないけど、あったほうが良いよねと思ってもらえる。そういうものを世の中に一つ一つ、丁寧に作っていきたいです。


石黒
全ての人に新しいデザインの仏壇仏具を選んでほしいということではないんですね。


保志
そうですね。実際に大切な方が亡くなって、その人のために何かをまつりたいと思うときに、従来型の仏壇がいい人はそれでもいいです。弊社はその中で、「こういうのあったの!?知らなかった!」って思ってもらえるものを目指していきたいと思っています。


石黒
本当に人を大切にされてるからこそ、心が豊かな社員が集まってこられるんだと思いました。本日はありがとうございました。

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