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「存続率0.02%」を乗り越えるために

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「存続率0.02%」を乗り越えるために

関西大学 3年生

田房 麻綺

株式会社きらく

辻野太郎

interview

学生と経営者がお互いに意見交換しながら、相互理解を深めるHR sessionの対談コンテンツ。

今回は、株式会きらく 専務取締役 辻野太郎様に、お話を伺いました。

関西大学 3年生
田房 麻綺

関西大学商学部。2025年卒業見込み。人材業界やメーカー業界を中心に就職活動中。中学校から現在までバレーボールを続けてきた。趣味は岩盤浴に行くこと。

株式会社きらく
辻野太郎

関西学院大学卒業後、証券会社で営業スキルを学び、家業の株式会社きらくに入社。うどん業態などで現場修行の後、主に商品、業態開発に従事。15ブランド以上の業態の起ち上げを経験し現在に至る。(本かつ喜、ONIJUS COFFEE VILLAGE、STORM etc…)未来を見据えた新規事業のフードテック冷凍ブランド、『FROZENDOOR』を軌道に乗せるため奔走中。

目次


 

経営者になると決めていた

田房
御社については100年続く企業を目指していらっしゃるという点で非常に興味を持っておりました。最初に辻野様の簡単な経歴についてお話しいただけないでしょうか。


辻野
辻野太郎と申します。現在42歳で弊社に入社したのがちょうど25、6歳の時です。中学から高校までは全寮制の学校にいて、中2の人が世話係として中1に教えてくれるような縦割りの世界でした。ずっと寮生活で制限されてきた部分もありました。


田房
そうだったのですね。


辻野
大学は関西学院大学に入学しました。これまで漫画禁止、テレビ見るのも土曜日の夜7時から9時しか見れない生活だったので、大学からとても自由な生活になりました。


田房
寮生活を経験されてからだとさらにギャップを感じられたんじゃないですか。


辻野
大学に入った瞬間に多様性と言いますか、みんな個性があると感じました。逆に自分にはないなと思って、大学に入ってから自分は何なのかというのを考えながら、楽しく生活しておりました。大学を卒業してからは2年間、証券会社で営業をしました。


田房
証券会社に入社したのは何か理由があったのですか。


辻野
本当は銀行に行きたかったんですよね。経営者になるということを決めていましたので。


田房
そのころから決めていたのですね。


辻野
もちろんです。財務会計や会計などを学んでおかないと、と漠然と思っていて、金融関係の銀行を受けました。


田房
2年間で辞めるというのは決めていたのですか。


辻野
ライブドアショックというのがあって、元の状態に戻るのに2、3年かかると思っていました。そのタイミングで、弊社の当時の番頭から、「若いうちから現場で学んで経験したほうがいいんじゃない?」と言われて、2年後に弊社に入りました。


田房
そうだったんですね、ありがとうございます。


飲食店として1,000年生き続ける

田房
100年企業を目標としているということをホームページで拝見させていただいたのですが、なぜ100年企業を目指しているのかをお聞きしてもよろしいですか。


辻野
100年というのは、社員にわかりやすく言っているだけで、本当は500年、1,000年続けていこうと思っています。100年というのは弊社の社長が第二創業時に言った言葉なんですよね。


田房
はい。


辻野
推察するに、100年企業というのは101年目にやめるというわけではなくて、企業はよくゴーイング・コンサーンというじゃないですか。会社を将来にわたって継続していく前提のこと。本当に50年、100年、従業員さんと一体になって続けていくという意気込みをこめて100年と言っています。


田房
心を込めた思いと言いますか。企業を永続させていくという考えですかね。


辻野
そうですね。100年続いている企業って例えば韓国だと、本当に全然ないんですよ。0.05%以下なんですよね。


田房
そうですね。日本の飲食店で100年続いている企業は0.02%という非常に小さな数字となっていますよね。


時代適応、不易流行

田房
100年企業を続けるにあたって、ぶれない軸やこれだけは譲れないという軸はありますか。


辻野
そうですね。時代適応という言葉4文字と、不易流行という4文字ですね。流行っていう時代の流れはあるんだけども、そこに対して不易という変わらないもの、変わらない信念や変わらない自社のコンテンツ、ぶれないものがあって。そこは大切にして流行にのるイメージです。


田房
なるほど。


辻野
弊社は日常食、一般大衆食のうどん、ラーメン、とんかつとか、みんなにわかりやすい、一週間で何日でも食べれるようなものにこだわっています。その中で時代にどう適応していくのかをチャレンジしています。


田房
流行を追いつつも、軸は絶対に崩さないということですね。


辻野
そうですね、日常食で、べたな商いなんだけれども、現状に満足することなく深堀りしていきながら、その時代に適応していくこと。店長会議や色んな会議で社員に伝えています。


田房
ありがとうございます。御社でONIJUS COFFEE VILLAGEというカフェを運営されるようになった背景も、流行を追うことと関係があるのでしょうか。


辻野
はい、これは私自身の勉強です。


田房
勉強なんですか!!


辻野
そう。流行を追うと大変なんだな、というのは、このお店を作ってやっぱり分かりました!


田房
どのような背景でこのカフェを運営しようと思ったのですか。


辻野
弊社は同族会社なんです。役員5名が男5人の兄弟なんですが、私の父親が長男で会長。次男が社長で、三男が副社長。四男、五男が常務です。私が30歳くらいの時に、その方たちがここで喫茶店をやろうとしていました。設計図を見たときに暗い感じで、富田林でこれを作っても普通の喫茶店と変わらないと思って、私たちでやらせてくれないですかという風にお願いしました。


田房
何かコンセプトはあったのでしょうか。


辻野
当時とても雰囲気がいいパンケーキ屋さんがあって、あるアパレルの内装をイメージさせるかっこいいお店だったんだけど、こういうものが富田林にできたら地域の人とか喜んでくれるんじゃないかなって。富田林ってONIJUSあるからええやんって言われるような地域ブランディングもしたいなって個人的に思っていたんです。


さりげない感動を提供

田房
ONIJUS COFFEE VILLAGEもそうですが、他にもとんかつやうどん、様々な商品を開発されていると思います。その中で、大切にされている点はありますか?


辻野
食べた瞬間に、めっちゃ感動するんじゃなくて、さりげなく感動するぐらいのものを作っています。コストをかけたら感動させられるんですよ。例えば、トリュフをかけましたとか、いくらを大量にのせました、とか。ただ、そういうことをすると単価もあがるし、単価が上がるとお客様の層と乖離しちゃうんよね。そうすると、いつも来てくださるお客さんに全然喜ばれないよね。めちゃめちゃ感動させるというよりは、さりげなく感動。ちょっとこれ美味しいよな、安いしまた明後日来ようかなみたいなみたいに、ずっと日常使いしてもらえるお店を作ろうと思ってるんですよね。


田房
さりげない感動を与える......。


辻野
いかに自分たちの与えられた原価予算の中で、ふっと感動させるか、みたいなところ。その範囲で美味しいものを考えているんですよね。


田房
なるほど。


辻野
あと、これほんま逆説的なんだけど、うますぎるものって飽きるんですよ。


田房
たまに食べるからいいですよね。


辻野
そうそう。日常食で毎週何日でも通って欲しいから。うますぎるものよりも、食べやすい。ある特定のサラリーマンが美味しいというより、全世代。真ん中で平均にして美味しいやんって言ってもらえるものを作ってる。だから意外と難しいです。


逆境を跳ね返すために

田房
新型コロナウイルスが流行した際に、医療従事者に無料弁当を配布したというのをホームページで拝見させていただいたのですが、どのような背景から実施されたのでしょうか。


辻野
当時閉塞感があったじゃないですか、見通しもないし。弊社にできることはお弁当を届けるくらいしかないよねとなりました。それは絶対喜んでくれるんじゃないですかって。単純に飲食店として人助けできることないのかなって思っていました。


田房
私もアルバイトでは飲食店で働いてたんですが、その時期本当にお客様がいなくて、仕事もすることがないので、何をすればいいのかってなってました。


辻野
そう。自分たちも何のためにやればいいのか、社員のみんなも見えないタイミングってあるじゃないですか。その時に、社員さんに対してやったというのもありますよね。それで士気って上がりますよね。全体的な空気を断ち切りたかったです。


田房
医療従事者への貢献プラス、自分たちの士気をあげると言う。


辻野
自分たちの存在意義を確かめる、というのもあったと思います。


日本を世界のキッチンにする

田房
そのような背景もありながら、今後の事業における目標やビジョンはありますでしょうか。


辻野
今日本は人手不足です。この10年、人口は1億2,000万人くらいは絶対いてて、なおかつ労働人口も8,000万人前後は絶対いてたんよ。2018年くらいがトップピークで、そこから下がっていったんよね。下り切ってる。その8,000万人が15年後には6,800万人くらいになるんよ。かつてない人手不足だよね。


田房
厳しいですね。


辻野
その社会情勢をどうしていこうかを考えています。AIやロボットを使った、人が少なくてもお店ができるところを考えてるところです。オペレーションとかね。例えばフードコートって、そこでサービスしてる人いないじゃん。自分でオーダーして、自分で運ぶ、みたいな。そんな店舗を考えているところです。


田房
それだけでも人手不足は解消できますよね。


辻野
はい。また、最近はフローズンドア事業(冷凍食品事業)も始めました。弊社のうどん、らーめん、お好み焼き、とんかつ、焼き鳥、各業態の一番のメニューを、自社工場で冷凍食品にしています。工場の隣で小さなコンビニみたいなのを作ってそこで直販してるんよ。その地域に住んでる人はきらくのレストランもあるし、きらくのうどん屋の肉うどん、カレーうどんを冷凍で買って家でも食べられるんですよね。


田房
外食でも楽しめるし、家でも楽しめるんですね。


辻野
日本食は世界でも人気があるコンテンツなんですよね。それを世界中の人たちに届けたいという思いがあって、このブランドを作りました。コンセプトは、日本を世界のキッチンにする。日本人が作る料理って美味しいでしょ。外国人の方にも喜んでもらえるから。どんどん美味しいものを全世界に送り込んでいくイメージ。私たちが食のコンテンツを作って、新しいコールドチェーン、冷凍食品のコールドチャネルを開拓しながら、世界中に広げていきたいみたいな思いはありますね。


田房
冷凍食品に力を入れて、もっと世界に広めるっていうことですよね。


辻野
既存ビジネスもやりながら、ですね。同じことをやり続けていても退化すると思っています。新しいことにチャレンジしながら、日本を代表するような日本の冷凍食品メーカーになれたらな、という思いはあります。


田房
なるほど、ありがとうございます。


「いいところで働いてるやん、パパ!」

田房
人手不足の話にもつながりますが、従業員が不足するなかで、御社で働く方たちへの福利厚生についてお伺いしてもよろしいでしょうか。


辻野
よくブラックと言われる業界ですが、弊社は従業員さんが働きやすい制度をとっています。まず、原則店舗ごとのシフト制です。店の労働時間は若手が管理するのではなく、上長と本社がチェックして、残業しすぎていないかを全社員分チェックしています。また、社員の働き方をワーク型、バランス型、ライフ型という3つのパターンに分けています。自分の私生活を大事にしたい子に対してはライフ型といって、自分の生活スタイルをメインに考えてもらう。お仕事もやりながら、両立できるパターンでもあります。将来経営者になりたいとか、飲食業を学びたい子であればワーク型にしたり、その間の設定をバランス型としたり。そういった働き方の多様性に対応できるシステムは入れているところです。


田房
社員さん、パートさん、アルバイトさん、それぞれに合った働き方を選択されている、ということですよね。


辻野
そうですね。


田房
誕生日祝いなどの新しい制度についてはどのような経緯で作られたんですか?


辻野
これも今の社長が始めたものですが、基本的に働かれている方に少しでも喜んでもらえる何かがしたくて、それを具現化したものの一つです。誕生日祝いに関しては、店舗で使えるクーポンをプレゼントしています。また、弊社の社長は社員の結婚記念日に手書きのメッセージをお花と一緒に社員の奥さんに贈っています。


田房
珍しいですね。


辻野
私が社長になったらやりたいことがあって、小学校入学祝にランドセルをプレゼントしたいと思っています。


田房
えー!!


辻野
ランドセルのリストを子供に見せながら「パパの会社はこの中から好きなものを選べるようにしてるんよ」って言ったら、お子さんも鼻が高いじゃないですか。単にあげるだけではなくて、父親としての、「いいとこで働いてるやん、パパ!」みたいな。そういうところにも繋がるなと思っています。


田房
聞いたことない福利厚生です。今後が楽しみですね。


素直さには勝てない

田房
これから採用される方で、求める人物像はございますでしょうか。


辻野
弊社はお客様と関わりながら、食を提供しています。単に食だけでなく、団欒や幸せな雰囲気、日常での「ここあってよかった」「午後からも仕事頑張ろう」という活力を、仕事を通してプレゼントしています。そのような気持ちを大切にできる素直な子が入ってきてほしいです。


田房
どれだけいろんな能力を備えていても、素直さには勝てないということですかね。


辻野
勝てないですね。素直な子は吸収力があります。あとは、両親と仲がよかったり、身内に優しい子。


田房
人柄を非常に重視しているっていうことですよね。


辻野
そうですね、人ですね。


田房
入社後はどのような行動を期待されていますか。


辻野
素直な子は、お客様のふとした動きや目線で、「このお客様こういうところに困ってるな」と察知する能力が長けています。先回りして気づける。それが大事だと思っています。


田房
お客様の気持ちになって働ける人っていうのがいいということですよね。逆に成長がしにくい人ってどんな要素とかありますか?


辻野
頑固な子ですね。いつまでも1人で問題を抱えて悩んでる子が多くて、そこから抜けられない。すごく楽しい世界がもう先にあるのに。素直な子はすっとそこを破って出ていけるんですが、頑固な子はその自我がじゃまをしてしまいます。


田房
素直になりきれない子もいらっしゃると思いますが、そんな子の成長や失敗に対してどういうアプローチをされていますか。


辻野
全員が素直になれるわけではありません。そのために企業理念があります。弊社は、経営は心である、感謝の商い、素早い対応、商いを通じて社会に貢献する、仕事を通じて人をつくるという経営理念があります。これを考えていたら自ずと素直な性格に落ち着いていくんですよね。弊社の幹部は昔尖っていて、全部自分でやって、認められたいという雰囲気もありましたが、いつしか助けてもらおうという雰囲気にかわった。皆、本当に能力があると思っていなくて、それぞれが自分の領域をプロとして自覚を持って一生懸命やる企業です。だから、弊社はコロナからも立ち直れたし、コロナ前比率でも100%超えてるんですよ。


田房
コロナ前よりも売り上げを伸ばしているということですね。


辻野
飲食業は大変でした。ただ、それぞれの組織で責任をもって自分ごととして捉えてる。自分ごとで仕事をしてるから、戻れたんちゃうかなと思います。弊社は、誰かが特にプロフェッショナルで、秀でているのではなく、全体で強いというイメージですね。


田房
1人じゃなくてみんなでいたら強いんですね。


辻野
素直じゃない子も、社風やきらくの雰囲気、パートさんの優しさ、温かさにふれて、どんどんいい人間に変わっていきます。


田房
いろんな人柄の人たちに囲まれて、助け合って、影響しあっているんですね。


辻野
はい。仕事を通じて人をつくっていく、そこになりますよね。


田房
ありがとうございました。


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