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長く続く会社であるために、エースで四番にはならない

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長く続く会社であるために、エースで四番にはならない

香川大学2年生

岩本 拓朗

株式会社ナイカイアーキット

野﨑 哲太郎

interview

学生と経営者がお互いに意見交換をしながら、相互理解を深めるHRsessionの対談コンテンツ。

今回は、株式会社ナイカイアーキットの代表取締役社長 野﨑 哲太郎様に、お話を伺いました。

香川大学2年生
岩本 拓朗

大学を休学し、香川県さぬき市津田町で古民家を借りてうみの図書館という民間の図書館のハード面、ソフト面の設計、DIYをやっています。ほかに自分が運営する学習塾を立ち上げたり、津田町のまちづくりをしている人から話を聞いて学んでいます

株式会社ナイカイアーキット
野﨑 哲太郎

1985年生まれ。今年38歳。大学卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。その後外資系の専門商社に転職。2020年10月にナイカイ塩業株式会社の副社長に就任。2022年7月に株式会社ナイカイアーキットの代表取締役社長に就任し、現在に至る。

目次

 

岩本
本日はよろしくお願いいたします。香川大学で専攻、学科が建築になりますので、学生の心境を対談でお話しできたらと思っております。よろしくお願いいたします。
まずは、経歴を振り返りながら自己紹介をお願いします。


野﨑
岡山県出身で高校を卒業後、大阪大学の人間科学部というところに入学しました。卒業後には伊藤忠商事に就職をして、一生いるつもりでしたが、きっかけがあって実家に戻る決意をしました。ですが、伊藤忠商事は大きい会社で非常に恵まれている会社だったので、少し苦労した方がいいと思い、当時は設立して10年も経っていない外資系の専門商社に転職をしました。伊藤忠商事に8年、専門商社に3年4か月所属をして、2020年の10月に岡山に帰ってきました。


岩本
建築系とは別の学部を選択されたのですね。


野﨑
元々実家には絶対に帰ってこないという固い決意を持つために仕事を継がなくてよさそうな、期待されなさそうな学部ということで人間科学部にしました。


岩本
そうだったんですね。


野﨑
そして、ナイカイ塩業の副社長として帰ってきたんですけど、去年の7月からナイカイアーキットの社長に就任をして、全く背景がない分野、業種なので、今一生懸命勉強をしているところです。


岩本
ありがとうございます。


逆境でも信念は曲げない

 岩本
昨年就任されたということですが、企業として新しくチャレンジしたいこと、これまでと変えずに大切にしていきたいことがあれば、それぞれ教えていただけたらと思います。


野﨑
まず新しくチャレンジ、意識していることは「改善」という言葉はなるべく使わないようにすることです。今まで変遷してきた歴史や文化は、それがあって今があると思っているので「改善」という言葉を使ってしまうと前の人たちを否定してしまうことになってしまいます。なので「改善」ではなく「向上」という言葉をなるべく使おうと意識をしています。

 

岩本
なるほど。


野﨑
その中で一つ、今新しい取り組みとして決めて動いているのは、主に建設事業本部の中から今年、3人に海外出張に行ってもらおうと思っています。


岩本
そうなんですね。


野﨑
我々の主な活動地域は岡山が中心で非常にローカルなのですが、一方で外の世界を見ることがとてもいい刺激になるというのは、自分が今までいた商社での経験で感じていることなので、外の世界に出る、定期的に触れる、何か刺激を受けるというのはいいのではないかというのが一つです。少しでも自分たちの幅を広げて、来るべき時に備えていきたいなと思っています。


岩本
そういう取り組みをされているんですね。私も最近ヨーロッパの建築や工法が気になっていまして、日本だと木造建築の基準が厳しいなどがありますが、その辺りは技術的にヨーロッパが早くやっているので、行ってみたいなと思っていました。


野﨑
もう一つ、これも実行しようと思っているのですが、今後10年後、20年後にどういうビジョンを持って仕事をするか、どういう目標を作るかという道しるべ作りを10月からしようと思っています。具体的に動き始めているところでいうと、会社の制度や待遇面で、社員を守るような取り組みを考えています。


岩本
待遇などの話はこの後も引き続き質問をしながら聞いていけたらと思っております。


全ての人にとって良い機会の提供

岩本
地域に根付くというところは大きく掲げられているという風に感じました。その中で地域に信頼されるために重要なことや会社で取り組んでいることを教えていただけますか。


野﨑
地域のためにというのは非常に難しく正解が分からないので模索するしかないんですけれど、我々は真面目にコツコツやるということには長けていると思うので、手を抜かないで仕事をするというのは文化として根付いていると思います。大きくないものであっても手を抜かずに一生懸命やっているというのは、いい文化だなと思います。


岩本
手を抜かずにやってきたことが評価に繋がったということですが、技術的なところで具体的な評価ポイントはありますか。


野﨑
中国地方整備局では、過去に行った案件に点数をつけるものがあるんですが、その平均点を出したもので実は我々去年、中国地方土木工事で同点ですが1位(他9社あり)だったんです。こういった客観的な評価というものは、それも真面目でコツコツやっていることがやっていることの一つの指標になっているのかなと思っています


岩本
そうなんですね。すごいです。地域貢献についてはいかがでしょうか。


野﨑
地域貢献については、1830年代に建てられた野﨑家旧宅という古い建物に会社で得た利益の一部を寄付し、維持管理をしながら一般公開していたり、迨暇堂(たいかどう)という野﨑家旧宅の別邸で地域の方々のお雛様を披露するために場所を提供することに加えて、同じ場所でプロの先生方のお能の公演と春風亭昇吉先生の落語の公演を年1回ずつ行い、地域の方々に伝統芸能を楽しんでいただいています。


岩本
そうなんですね。


野﨑
これは地域の人には伝統文化に触れていただく機会で、演じる人たちにとっては自分のファンを増やす機会で、また我々としては古くからある建物を活用する機会ということで、本当に微力ですが地域の方々と接点を持ち、少しでも貢献していく取り組みは何年も前から、毎年続けています。


岩本
なるほど、ありがとうございます。


向上心から生まれるきらりと光る仕事

岩本
会社の未来を作っていく上で、どんな人と働きたいか、学生に求める要素はありますか。


野﨑
個人的に前向きで向上心のある人かなと思っています。お客様の意向があったり、地域の意向があったり、色々な法律を含めて条件がある中で、中々自分の思い通りに行かない職業だと思うんですよね。だけどそこでネガティブな発想になってしまうといい仕事ってできないと思うので、そんな状況で前向きに貪欲に向上心を持っているという人は、きらりと光る仕事をすると思っています。


岩本
私もそうですが、建築の学生は向上心が強い傾向にあるなというのはあります。


野﨑
おっしゃる通り建築の方っていうのは志を持ってその道に行かれる学生さんが多いと思っているので、そういう人が多いのかもしれないですね。


岩本
そうですね。


野﨑
今までの仕事を通じて、前向きな人の周りには、困ったときに助けてくれる人が現れやすいのかなと思っていて、逆に不満が先に出てきてしまって文句ばかり言ってしまう人の周りには、困ったときに手を差し伸べてくれる人がいないっていうことが多かったなという印象があります。


岩本
なるほど。ありがとうございます。


人を見つめることへのこだわり

岩本
企業理念で人を見つめることを大切にされていると明言されていました。野﨑様自身が人をみつめるときや、向き合う際に、意識していることはありますか?


野﨑
グループ会社の社長方針というものがあって、「人材の育成に努め、不滅の企業体質を作る」という言葉が一番最初にあります。普通は「公共のために」とか「地域のために」を並べる企業が多いんですけど、最初に自分の会社、社員のことを掲げる会社は珍しいと思います。


岩本
会社、社員が第一に来るんですね。


野﨑
そういった文化を育むためには、その人のことを見ないといけないと思っています。私が考える人を見つめる、向き合うというのは、まずはその人に興味を持つということで、ダイレクトにコミュニケーションをとってみるっていうことと、少し距離を持ってみるということの両方をバランスよく行うことだと思っています。


岩本
なるほど。そうなんですね。


野﨑
これも難しいですよね。大事だと分かっているからそれを掲げればいいんですけど、本当に中身を伴って出来ているかはまた別の話だと思うので、そこを見極めるのって難しいなといつも思います。


岩本
なるほど。それに関してなのですが、HPの社内ブログは社員さん自身が始めたことなのか、会社としてこういう風に打ち出していこうと考え、始めた事なのか。どちらでしょうか?


野﨑
これは、社内でのコミュニケーションをよくするためというよりは、地域の方々との接点というもの、あるいは、地域の方々に安心していただくための一つのツールという目的で、どちらかというと活用されているんじゃないかと理解しています。


岩本
非常にいい取り組みだなと思いました。会社としてだと急に人とのコミュニケーションが少し取りづらくなるんですが、間に社員を挟むことによって、人と人というコミュニケーションが出て、個人が発信する時代にすごく合っているなと思い、非常に参考になりました。


野﨑
ありがとうございます。


大変だった過程から得られるもの

岩本
HPを観させていただいたところ、港湾工事が非常に多いなと思いました。港湾工事となると、規模が大きくて面白そうだなと、やりがいがあるのかなと建築・土木学生は思うと思います。こういった場合、泊まり込みで工事をすることもあるのかなと思うのですが、あまりないでしょうか。


野﨑
泊まり込みはあまり聞いたことがないですね。


岩本
そうなんですね。最近は減ってきているんですね。


野﨑
港湾工事が多いというのは鋭い視点で、我々の主要事業が1829年に塩の事業で始まっていて、塩の事業を含めると今年で194年目になります。当時は塩田で塩を作っていて、塩田は土木工事などを経てできていくものなのでそういうことにルーツを持っています。なので港湾工事が自分たちの得意分野としてずっとあったということです。


岩本
そういうところに関連があったんですね。


野﨑
やっぱり実績っていうのが大事になってくるので、今少しずつ道路を作ったり橋を作ったりと幅を広げていっているところです。


岩本

そういう経緯があったんですね。
作る事の醍醐味は最初から最後までの過程を見たときに感じる達成感だと思っていて、社員さんのコメントにも経過が見られることが面白いと記載があり、非常に共感できました。これまで、このプロジェクトはすごかったなというものはありますか。


野﨑
自分が携わったプロジェクトって実はあまりないんですけど、豊島のエスポワールパークはちょっとユニークというか、いわゆる一般の建築と違って芸術性が入ってくるような建築だったので大変だったんですが、評価していただけるようなレベルになったというのは、とても意味のある、意義のある建物なのかなと思います。あと倉敷少年自然の家というのが去年の春にできたのですが、そこも新しい取り組みで面白いと個人的には思います。


岩本
ありがとうございます。


他にはない業態だからこそ
社員満足へのとりくみが難しい

岩本
働きやすさというところは最初の方にも少しおっしゃられていましたが、強みを上げるとしたらいかがでしょうか。


野﨑
それが難しいんですよね(笑)


岩本
そうですよね。


野﨑
ナイカイアーキットっていわゆる一般の建設会社とは違って、ちょっと変わった会社なんですね。建築や土木などの現場工事が大事なことをやっている部隊ともう一つ機械プラントで作っている電解銅箔用チタンドラムを取り扱う部隊があるんです。この分野を担う企業はおそらく日本で4社しかない。そのうちの1社が実はナイカイアーキットなんですけど、工場管理型(機械プラント)をやっている組織と現場で物を作る組織の2種類の業態をもっている会社は他には少ないと思います。


岩本
そうなんですね。


野﨑
その中で共通した働き甲斐や働きやすさの特徴が違って作るのは難しいんだなっていうのがこの半年でよく分かってきていて、どうやったら働きやすい、働き甲斐を感じるのかっていうのが、個人的には今持っている大きな課題の一つです。


岩本
なるほど。何か取り組み始めていることなどありますか?


野﨑
今考えているのは環境面ですかね。人を採用するのも難しいんですけど、出てく人を減らすというのも、すごく大事なことだと思っているので、出ていく人を減らすための環境整備作りというのは力を入れていきたいと思っています。ただそれは僕の思いだけで制度上できないのかもしれないですし、何か障害があったりするかもしれないので、それはまだこれからになってくると思います。


岩本
なるほど。会社の経費などで負担ができるかとかですかね。


野﨑
そうですね。社員のためになる事には前向きに取り組んでいきたいなという風には思っています。社員が困っていることとか、社員のためになることはどんどん考えてくださいっていう風にお願いはしています。


岩本
働くモチベーションが下がったりするので必要なものですよね。


エースで4番にはなるな

岩本
冒頭自己紹介をいただいたときに実家には戻らないぞという想いをもって、建築系とは別の学部へご入学されたとのことですが、戻ってこられたきっかけをお伺いしてもよろしいでしょうか。


野﨑
伊藤忠を退職した後、自分自身を振り返る時間があったんですが、1個反省したことがあって、僕自身かなり背伸びをしていたんです。反省して、次の会社では見栄を張るのをやめようと思ったんです。そうすると色々なことがすごく上手くいくようになりました。


岩本
きっかけは何だったんですか?


野﨑
父に一言言われたのは「エースで4番にはなるなよ」っていうのを言われたんですよね。要はカリスマの社長さんって世の中にたくさんいらっしゃると思うんですが、その社長さんがいなくなった後、不安の方が大きいと思うんです。うちが194年続いているのは代々の野﨑がエースで四番だったからじゃないんだと気づいたんです。


岩本
言葉自体は、分かるとは思うのですが、お気づきになれることが、すごいですね。


野﨑
いや、周りで働いている社員がすごいから194年続いてきているんですよね。というのを考えると、やっぱり社員のことを大事にして社員が働きやすい環境、社員が力を発揮できる環境を作る事で会社が続くことに繋がるんだと思いました。


岩本
すごく勉強になりました。エースで4番は、すごいんですけど大体周りがついてこれないんですよね。


野﨑
エースで4番は確かにすごいし、その力を否定してはいけないと思うんですけど、僕はこの会社が200年、300年と続いてほしいなと思っているので、長く続くためには社員の人たちが頑張れる環境、社員の人たちが力を発揮できる環境が大事なので、自分が目立たなくていいんですよね。


岩本
なるほど。確かにそうですね。 


事実をとらえる癖付けをしてほしい

岩本
これから社会に出る学生に期待されることやアドバイスがあればお教えください。


野﨑
前向きな人と働きたいとかもあるんですが、学生の方には事実と向き合う癖をつけてほしいなというのは思っていますね。なんとなく事実に向き合おうとする人が多くないような気がしています。思い込むんじゃなくて、事実に向き合うってすごく大事なことで、それは素朴な疑問から生じることもあるので、大人になると癖付けるのが難しくなってきます。なので学生の間にぜひ事実に向き合うという癖を付けてほしいなと思っています。


岩本
その通りかもしれませんね。本日はありがとうございました。


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